人名 小宮山 綏介
人名読み Komiyama Yasusuke
生年月日 1830/1/17 (天保元年)
没年月日 1896/12/24 (明治29年)
出生地 茨城県水戸
専門分野 日本経済 後期水戸学
解説

  小宮山綏介は、名は昌玄、南梁と号している。1830年1月17日、小宮山昌堅の子として水戸に生まれた。祖父は、『大日本史』編纂に従事した考証的史家で、農政にも優れた手腕を発揮した小宮山楓軒である。綏介は祖父に憧れ、維新まで祖父の軌跡を追うように努力したと伝えられる。しかし当時の水戸藩は藩内の政治が安定せず、小宮山綏介も一度致仕することがあった。
  小宮山は生涯足を患い、治療のため水戸から江戸を何度か訪れている。江戸においては海保漁村らと学術的交流も保った。1856(慶應元)年には、大番格で藩校弘道館の助教(後に教授)として勤め始める。祖父と同様に、学問と実践の両立を理想とし、実際の農政にも成果をあげている。また、明治維新に至る時期、小宮山は日記風の記録をつけており、現在それは『南梁年緑』として残っている。この長大な作品は、当時の社会風俗や藩士としての政治活動、幕府の内実などが詳細に記されている。さまざまな方面から、この書は貴重な資料とされている。
  小宮山は、1868(明治元)年に水戸藩内党争に坐して、幽閉されたが、4年の後に、許され、以後、活動の場を東京に移した。上京後は大蔵省に出仕し、初めは中央官僚として活動する。次に、江戸時代の制度に詳しいことを買われて、東京府の地理誌編纂総修となった。辞職ののち1889年6月1日に『江戸会雑誌』を刊行し、活発な文筆活動を開始する。『江戸会雑誌』は2号刊行の後、増頁して新たに『江戸会誌』となった。『江戸会誌』第1冊第1号に、無署名ではあるが編集人である小宮山の文章と思われる「江戸会誌の首に」と題する一文が掲載されている。
  小宮山はこの文章で「今の理に泥みて情を軽んじ古習旧慣を措きて唯だ法を外国より採り来りて、以て国家を経緯せんと欲するもの」を批判している。これは当時、隆盛が決定的になっていた洋学への批判である。小宮山は、明治維新が「社会百般の事」を破壊したと指摘する。この雑誌は、徳川三百年間の事跡を考究して、その成果を一般及び後世にも及ぼさんとするものであると述べている。小宮山による以後の言論活動の意義は、ほぼこの一文に集約される。彼は江戸時代の優れた文物・制度・思想を、明治の人々へ紹介することに残りの生涯をささげた。
  小宮山は国学院大学の前身である皇典講究所にも加わり、活発な講演活動をしている。これらは筆記され『皇典講究所講演』、後に『国史論纂』や『法制論纂』などに採録されている。また、『古事類苑』編纂においては、編集委員に名を連ねた。
 これらの文筆活動のうち、特筆すべきは「江戸町奉行の事」である。小宮山は、江戸時代の町人の制度を高く評して、「当時の制度は自治に近きもの」と述べている。福沢諭吉は1892年に出版した『国会の前途』の中で小宮山綏介の名前を明記してこの一節を引用し、今後の立憲体制はこの自治の習慣を相続するべきであると論じている。洋学者が江戸時代を過度に否定することへ批判を加えてきた小宮山に対し、洋学の指導者である福沢が肯定的に答えた形となっている。
  小宮山は1890年、慶応義塾大学部文学科・理財科・法律科に講師として招かれている。理財科では「日本経済」の講義を担当した。講義の様子は『時事新報』2811号などに掲載されている。そのほか義塾在職中には、『老子、呉子、孫子、列子講義』『詩経講義』など中国古典の注釈本を精力的に出版している。特に『韓非子講義』は、そのわかり易さもあって慶応義塾では多く読まれたようである。
  当時、日本亜細亜協会(Asiatic Society of Japan)の中に、民族誌委員会(The Committee of Ethnography)という組織があった。慶応義塾内にオフィスを設け、日本在来の制度習慣に関する古文書を収集して英語に翻訳する日米英共同プロジェクトであった。英語ができる若い日本人は古文書が正確に読めなかったので、小宮山がその解読の際に活躍した。
  辞任後は『洋学大家列伝』の出版を準備していたが、1896年12月24日胸疾により死去した。この書は未完成のまま弟子の手によって後に出版された。福沢諭吉が尊敬してやまなかった大槻磐水や、福沢の師匠である緒方洪庵について触れ、これらを高く評価している。この書は青木昆陽から始まって中村敬宇(正直)で終わっているが、福沢たちの活躍も、江戸時代の先哲による蓄積の上に立っていることを示したかったようである。著作は他に『日本貨幣年表』『徳川太平記』『近世豪傑譚』や『天正日記』の注釈本などがあり、多くの手稿が、現在、国立国会図書館・古典籍資料室に保管されている。(坂本慎一)

旧蔵書 関連文書:『小宮山叢書』, 『続小宮山叢書』(国立国会図書館所蔵)
出典 / 参考文献 小宮山綏介編集『江戸会誌』,
茨城県立歴史館編『茨城県史料=幕末編供(茨城県, 1989年)