人名 小高 泰雄
人名読み Kodaka Yasuo
生年月日 1901/3/25 (明治34年)
没年月日 1961/8/18 (昭和36年)
出生地 神奈川県
専門分野  
解説

  小高泰雄は、1901年3月25日に横浜市根岸町に生まれ、1922年4月に慶応義塾大学経済学部に入学した。大学では、 三辺金蔵のもとでクラーク(Clark, John Bates)の動態的経済理論に関心を持ち、景気変動論および恐慌論について熱心に研究した。当時は、小高が卒業論文で批判対象として取り上げた高田保馬著の『景気変動論』などを除いて、景気変動論研究はまだ少なかった。
  景気変動研究への関心が急速に高まっていくのは、アメリカで大恐慌が生じた1929年以降である。同年、小高は慶応義塾大学経済学部助手となり、慶応義塾大学内においても景気変動研究所設立の機運が高まっていった。こうしたなか小高はピグー(Pigou, Arthur Cecil)、ホートレー(Hawtrey, Ralph George)、ロバートソン(Robertson, Dennis Holme)、ミッチェル(Mitchell, Wesley Clair)などの学説を精力的に研究して、景気変動論の新たな方向性を展開しようとしていた。その成果は慶応義塾大学経済学講座『景気変動論』に纏められている。それは景気変動についての諸学説を広範に取り上げるとともに、それらをシュンペーター的な観点から体系化しようとするものであった。また、小高はピグーの著作を翻訳するなどして、その学説を広く紹介した。
  景気変動研究所設立の計画が財政的事情などによって頓挫してしまうと、小高は1935年3月から2年にわたって、ドイツ、イギリス、アメリカに派遣されることとなる。この留学では、景気変動研究とともに会計学の研究も要請されていた。小高はケルン、 ロンドン、コロンビア各大学で、この二つの課題に取り組んだ。この留学は、小高の研究の重心を経済学から経営学、会計学へとシフトさせる契機となる。小高が会計学の研究を要請された背景には、三辺金蔵に師事していただけではなく、小高の景気変動研究において当初から企業の計算誤謬や経営的問題が重要な要素となっていたことも関係しているといえるだろう。経営上の問題と経済の変動との関係は、小高の重要なテーマであったのである。
  小高は留学後、1937年には同学部助教授、1939年に同学部教授に就任する。そのあいだ経営計算、経営価値に重点を置いた経営学著作の執筆に取り掛かり、その成果を発表した。
 
  小高の会計学の特徴は、原価計算など経営にかかわる諸問題を絶えずその基底にある経済の変動との関連で捉えていく視点である。小高は、ケルン大学において、経営経済学として会計理論を体系化し、日本の会計学に大きな影響を与えた研究者でもあるオイゲン・シュマーレンバッハ(Schmalenbach, Eugen)の研究に従事している。貸借対照表に計上された資産を損益計算表へ動的に配分し、適正なる期間損益計算を基礎付けたシュマーレンバッハの動的貸借対照表を研究して、そこにみられる管理会計的な思考を発展させた。
  また、小高の独自の貢献として挙げられるのは、原価計算の根底にある物量計算を、景気変動的理論を加味して発展させた原単位計算の研究である。小高はこうした研究を、実際に日本鋼管株式会社、東京芝浦電気製作所、王子製紙株式会社などの工場、作業場に入り、具体的な生産技術と計算技術の結合をめぐる問題として取り組んだ。工場への滞在は短いものでも約1ヵ月、長いものでは2年近くにわたり、こうした工場遍歴は「単位作業場の研究」、「生産管理論」に纏められ、さらに『原価計算と原単位計算』として結実した。会計理論を抽象的なものとしてではなく、個別企業の見地に立って、具体的な経営形態との関係で資本の流れを捉えようとする姿勢は、小高の会計学に特徴的なものといえるだろう。
  1957年4月に商学部が設立されると、同教授に就任して、小高は経営学、会計学そして原価計算論などの講座を担当し、三辺金蔵とともに慶応義塾大学にその礎石を据えたものと評価される。また、第一回の公認会計士試験からその試験委員を勤めるとともに、企業安定本部企業会計審議会委員に就任して、日本の会計制度の整備にきわめて大きな役割を果たした。
  小高は昭和1969年3月、定年により慶応義塾大学商学部教授を退任した。その後体調を崩し、慶応病院、伊豆韮山温泉病院などで療養にあたり、8月には小康を得て退院するも、そのわずか数日後8月18日脳血栓のため急逝した。(山本崇広)

旧蔵書  
出典 / 参考文献 山本昌弘著『会計とは何か:進化する経営と企業統治』(講談社, 2008年)
小島三郎著「小高先生の「経営学説」について」(慶応義塾経営会計研究室編『経営組織と計算制度:小高泰雄博士還暦記念論文集』 1964年)
会田義雄著「小高先生の『会計学説』について」(慶応義塾経営会計研究室編『経営組織と計算制度:小高泰雄博士還暦記念論文集』 1964年)
小島三郎著「故小高泰雄博士の学説」(三田商学研究. 12巻6号, 1970年)
友岡賛著「三田の会計学」(三田商学研究. 50巻1号, 2006年)
<写真>福沢研究センター蔵