本書はいわゆるウェーランド経済書と称される、『経済学綱要』の全訳。この全書は明治初期の日本において、同じ著者の『道徳科学綱要』(1835)と並んで大量に輸入され、「ウェーランド・ブーム」(伊藤正雄)と表現されるほど広く普及し、全国のさまざまな教育機関で教科書として使用されていた。また、その翻訳も福地源一郎(明治4年『官版会社弁』)、何礼之(5-7年『世渡の杖 -名経済便蒙』、原書簡約版全訳)らによって部分的に行われていたが、本書ははじめての(親版)全訳である。この翻訳作業は当初、福沢諭吉によって開始されたが、原書冒頭の僅かな部分を訳出したことにとどまり(『福沢全集』第十九巻に『経済全書』として収録)、これを小幡篤次郎が引き継いで約7年間にもおよぶ作業の末、明治10年に全九巻をもって、ようやく完結したものである。ちなみに慶応義塾では毎年5月15日を「福沢先生ウェーランド経済書講述記念日」としている。 (三島憲之) |
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