和綴じ2冊本の本書(1880年刊)は、前年1879年出版の『経済説略』の改訂版だが、改訂といっても前版と大きな違いはない。永田は、すでに1877年に、『宝氏経済学』の書名で、イギリスのフォーセット夫人(Fawcett, Millicent Garret)の政治経済学入門書、"Political Economy for Beginners" の第4版(1876年)を翻訳刊行しており、『経済説略』はその要約版である。もととなったフォーセット夫人の原著は、明治初年にしばしば翻訳された経済学入門書であり、林正明の『経済入門』(1873年)も、原著第1版と第2版の訳出である。 この『宝氏経済学』は、和綴本5冊の比較的大部の本であったが、『経済説略』の「緒言」によれば、永田の予想を裏切り広く普及し教科書として利用される場合も多かったという。しかし、同書の普及と同時に、より平易で読みやすく「小学子弟教授」にも使用できる要約版を求める声も高くなった。この求めに応じて、前著の大意を摘録した啓蒙的教科書が本書である。本書も、広く受け入れられ、翌年に改訂版の『改正経済説略』が刊行されることとなった。 なお、『経済説略』は大筋において『宝氏経済学』によってはいるものの、永田が、他の経済書なども参考にして内容を取捨変改したものでもある。特に、原著は英国の事例に則って記述されており、制度慣習の異なるに日本の読者には理解しがたい部分も多かった。そのような部分は、身近な日本の事例をひいてわかりやすく解説する工夫が加えられている。また、経済学説としては、原著と異なるものではなく、需給法則による自由な価格決定や自由貿易を信奉するなど、古典派自由主義経済学に分類されるべきものである。(小室正紀) |
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