画像一覧 > 商用文例 / 森下岩楠編, 小島春書


  森下岩楠は和歌山県出身で、最初期の慶応義塾において教鞭をとった人物である。その後は時事新報の記者などを経て、東京興信所の所長を務めた。この『商用文例』は1893年に出版されており、故郷の和歌山で衆議院選挙に立候補して落選した後の作品である。森下の人生の中では、東京興信所の所長として実業家へ転身・雄飛する直前であった。
  内容は、商業上に必要な手紙などを書く場合の文例集であり、形式的には江戸時代以来の商業書簡文例集である商売往来の形をとり、用例別に具体的文例が紹介されている。例文は、実際に使用された文章を集めたと序文で述べられているように、維新後のビジネス文書の内容と形式を知る上で、資料的価値があると思われる。ただし、実際にこの書が出版後にどの程度ビジネスの現場で参考にされたかは不明である。
  揮毫を担当した小島春について詳細は未詳であるが、他に成瀬正忠編『新撰商売往来』(東京府商法講習所、1882年)の筆書なども担当している。小島は、少なくとも最初期慶応義塾における福沢諭吉門下の人物ではないようである。(坂本慎一)