小幡篤次郎は、福沢諭吉の補佐役として長く慶応義塾の経営に尽力した人物である。小幡の英語能力については当時から定評があり、彼はその語学力を生かして多くの英書を訳した。この書は1869年、慶応義塾が三田へ移転する前の新銭座時代に記されたものである。 この書は、序文によると西洋各国の財務状況を紹介した「マルチン氏ステートスマン・イールブック」の訳である。「撮訳」としてあるので、抄訳のようである。原文は1869年イギリスで出版されたとあるので、この書は当時最新の情報を提供していたことになる。 この当時の慶応義塾は、西洋の文物制度を精力的に紹介していたが、本書もそうした啓蒙書の一つであると考えられる。各国の省庁や税金の名称が今日から見ると違和感のあるものになっているが、それは、いまだ英語に対応する日本語訳が定まっていなかった啓蒙時代の苦労の跡を示すものでもある。 本書の最後には、「慶応義塾蔵版目録」がある。いくつかの書籍の偽版について言及しており、当時の出版事情が垣間見える。(坂本慎一) |
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