堀江帰一の「財政論(のち「財政学」)の講義も、当初は「銀行論」と同じく外国の原典を訳読しながらの授業であり、教科書としてはチャ-ルズ・フランシス・バステーブル(Bastable, Charles Francis)の『財政学』(Pubsic Finance,1892)が使用されていたという。しかし、堀江は「他人の著作を教科書に充てんか、往々私見と相違するところありて、講学上に便なりとせず。」(「自序」)として、これまでの講義に使用した稿本に改訂を加えて、本書を出版したものである。ただし教科書といっても本書は全体で4編14章から成る900頁近い大著であり、本格的な財政学の体系書となっている。この中で堀江は、国家の役割についていわゆる夜警国家・消極国家論を廃し、教育・衛生の提供だけでなく、自由競争の結果、発生する貧富の懸隔の是正を行う事、さらには郵便・電信・鉄道など設備投資が巨額に及び、その回収が長期間にわたる事業については国家がこれを経営する事をも求めており、後に本格的に展開される事になる彼の「国家資本主義」的な思想の萌芽が窺えよう。(三島憲之) |
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