福田徳三の代表作の一つに数え上げられる『厚生経済研究』。福田は歴史学派の衰退やマルクシズムの興隆を目にして、ワルラス (Walras, Marie Esprit Leon)を初めとする数理経済学の研究を弟子には強く推奨した。そのことは中山伊知郎の述懐からも明らかである。しかし、数学的操作にうとい福田自身の頼むところは、ホブソン (Hobson, John Atkinson)、ピグウ (Pigou, Arthur Cecil)、キャナン (Cannan, Edwin)らの厚生経済学理論だという。書名はしたがって福田自身の立場をも表している。本書には、福田が1925年にモスクワで行った講演、「生産力の問題」も収められている。同じ機会にケインズ (Keynes, John Maynard) も講演を行っており、これに対する福田の所感も書かれている。両巨頭の意見の交換はいかなるものであったろうか。福田自身は元来英語で講演する予定ではあったが、先方の希望で急遽ドイツ語の講演に切り換えたという。彼の優れた語学力を彷彿とさせるエピソードではある。慶応義塾大学図書館所蔵本は福田自身による寄贈。(池田幸弘) |
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