前著『英国資本主義の成立過程』(1937年、学位論文)で、それまでのイギリス経済史研究を集大成した野村兼太郎であったが、そこで培われた実証的な研究姿勢の徹底は、徐々に外国の歴史研究そのものに限界を感じさせ、それが彼をして日本を対象とした研究に向かわしめることとなった。そして日本経済史研究とともに、その後の野村の研究の柱となったのが、本書に代表される日本経済思想史研究である。野村は塾の先人である滝本誠一の『日本経済大典』に依拠しつつ、その研究を進め、江戸期を中心とする日本の経済思想の体系的な把握を目指した。本書で野村は、「徳川時代の経済思想は、武士階級の財政難救済策にその端を発し、貨幣経済の発展をその対象とし、これに対する政策として発展していつたもの」との基本視角に立ちつつ、商業肯定論と否定論の対立・展開にその本質を求めたが、さらに維新以後の西洋思想の導入・受容に関して、それを可能にした思想的準備が江戸時代の思想的発展の中に行われていたとする見方を示しており、その点では本書は近世思想とのいわゆる「連続説」の先駆と評価できるであろう。(三島憲之) |
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