画像一覧 > 村明細帳の研究 / 野村兼太郎著



  本書は『五人組帳の研究』(1943年)に続く、野村兼太郎の日本経済史研究の代表作であり、1000頁を越える大著。「日本経済史研究の頂点をなすもの」(島崎隆夫)と評される本書であるが、その白眉は彼が戦前より精力的に蒐集した、関東地方を中心とする膨大な江戸期各地の村明細帳を翻刻収録してある「資料編」にあろう。こうした一次史料発掘・蒐集の情熱の背後には、日々散逸・亡失しつつある「われわれの祖先が残した多くの文献」を「後世に伝えて置く義務」への自覚とともに、「学問研究は単なる模倣であってはならぬ。自己の生活を分析批判し、自ら生み出されるものでなければいけない。何らかの自己批判なき独善的な抽象論は単に学問研究の基礎とならないばかりでなく、真の民族的文化の発展に大きな弊害を齎す惧れがある」という、実証性を重んじる彼の研究姿勢があった。これはまた、マルクス主義史学を中心とする当時の歴史研究が、ともすれば段階規定などの抽象的な概念論争に傾きがちだったことへの野村なりのアンチ・テーゼでもあった。慶応義塾図書館所蔵本は著者自身による寄贈。(三島憲之)


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