福田徳三の辞職によって空席となっていた「日本経済史」の担当者として大正8年に塾に迎えられたのが、滝本誠一であった。彼は東京朝日新聞の記者として活躍する頃から経済学に興味を持ち始め、その後も長く在野にあって独学でその研究を続けていたという。本書はそうした時期に彼が著した始めてのアカデミックな著作であり、これによって日本経済思想史研究のパイオニア―の一人としての地位を不動のものとした。内容は三部に分かれており、「第一 経済学の意義」では西洋経済学の学説を豊富に引用しながら彼我の経済学概念の相違を検討し、「第二 支那学説の勢力」では近世日本の経済思想における中国思想の影響の強さを論じ、「第三 学説と制度の関係」では日本の封建制度の特徴と経済思想の展開との密接な関係が述べられている。当時の研究の幣として、あまり深い検討もなくわが国の思想家の言説に西洋経済学の諸理論を当てはめ、それと類似の学説を見つけだすことで理解しようとする傾向が強かったが、本書はそうした水準の研究から確実に一歩抜け出したものとなっている。(三島憲之) |
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